言うなり、そこで鞭をあげて従者を敲いて言いました。
「わしは王侍御に会いたいのじゃ、王給諌に逢うのじゃない。あっちへいけ。」
そこで馬を回して帰りました。そして王侍御の家の門へ来ました。門番は本当の宰相と思ったので、走っていって王侍御に知らせました。すでに寝ていた王侍御は急いで起きて迎えに出てみると、小翠だったので、ひどく怒って夫人にいいました。
夫人は怒って小翠の部屋へ駆け込み罵りました。小翠はただヘラヘラと笑うだけで弁解しようともしませんでした。
その当時、宰相の権力は非常に大きかったのです。小翠の扮装は、そっくりで、王給諌も小翠を真の宰相だと思いました。そこで、度々王侍御の家へ人をやって様子をみました。しかし、夜中になっても宰相が帰えっていく気配はなかったのです。王給諌は、宰相と王侍御とが何かを
企てているのではと不安になり、翌日の朝、王侍御に逢って聞きました。
「昨夜宰相があなたの所へいったのですか。」
王侍御は王給諌がいよいよ自分を中傷しようとしていると思ったので、はっきりと返事をしませんでした。王給諌の方では王侍御が言葉を濁したのは、宰相が行って何か企てているのが真実なのだと確信し、王侍御を糾弾してはかえって危ないと思い、とうとう糾弾することを止めました。そして、王侍御に交際を求めていくようになりました。
その後、何度も小翠のいたずらで、王侍御一家は窮地に立ったり、また救われたこともあります。それから間もなく王侍御はさらに昇進しました。年はもう五十あまりになっていましたが、まだ孫がいないことを大変憂えていました。小翠は元豊と結婚して三年経ちましたが、夜は別々に寝ていました。夫人は元豊のベッドをとりあげて、小翠のベッドに同寝(ともね)させました。