ある日、小翠は部屋でお風呂に入りました。元豊がそれを見て一緒に入ろうとしました。小翠はそれを笑って止め、その後、甕(かめ)に熱い湯を入れて、元豊の服を脱がせ、甕の中に入れました。元豊は湯気に蒸されて苦悶しながら大声を出しました。小翠は元豊を熱湯の入った甕から出さないばかりか布団を持って来て、その頭に被せました。
間もなく元豊は何もいわなくなりました。布団をとって見るともう死んでいました。小翠は何事も無かったかのように、笑いながら元豊の屍を曳きあげて床の上に置き、体をすっかり拭いて乾かし、布団をかけました。夫人は元豊の死んだことを聞いて、泣きさけびながら入って来て罵りました。
「気が狂ったのか、なぜ私の子供を殺した。」
小翠は笑っていいました。
「こんな馬鹿な子供は、いない方がいいじゃありませんか。」
夫人はますます怒って、自分の頭を小翠の顔にくっつけました。そうしているうちに元豊はかすかに息を吹き返したのです。そして、家の人をじっと見て、こう言いました。
「私は、これまでのことを思うと、すべて夢のようです。どうしたのでしょう。」 健常者になった元豊と小翠はとても仲のいい夫婦になりました。
一年あまりして、小翠はうっかり、玉の瓶を落として割ってしまいました。王はちょうど仕事が首になって不平不満でいっぱいでしたから、怒って口を尖らして罵りました。小翠も怒って元豊の所へいって話しました。
「瓶(かめ)ひとつ以上、私があなたの家を救ってきたのではありませんか。なぜ少しは私の顔もたててくれないのです。私は、今、あなたに真のことをいいます。私は人間ではありません。私の母が長い時間、激しい雷に遭って、あなたのお父様の御恩を受けました。また私とあなたは、五年の夙分(しゅうぶん、夫婦の縁)がありましたから、母が私をよこして、御恩返しをしたのです。もう私達の借りは返しました。私がこれまで罵られ、はずかしめられても、出ていかなかったのは、五年間という夫婦の縁がまだ残っていたからです。でも、こうなっては、もう少しもここにいることはできません。」
小翠はつんとして出ていきました。元豊は驚いて追いかけましたが、もう姿は見えなくなっていました。元豊は悲しくて、泣き叫んで死のうとまで思いました。彼は日に日に痩せていきました。王はひどく心配して、あわてて後妻を迎えてその悲しみを忘れさせようとしましたが、元豊はどうしても忘れられなかったのです。
二年くらいの月日が過ぎました。元豊はたまたま出かけたとき、小翠と偶然会ったのです。元豊は小翠を伴れて帰ろうとしましたが、小翠は同意しません。 分かれて一年あまり経って、小翠の容貌や声がだんだん本来の姿に戻ってきました。小翠はもう年で、子供を生めない体なので、元豊に女性を紹介しました。
元豊はその話を聞き、また結婚しました。その結婚式が近くなった頃、小翠は新婦のために衣装から履物までこしらえて送りました。新婦が元豊の家の門を入って来ました。すると、その容姿や、言葉遣いから、仕草まで、小翠にそっくりで、いえ、小翠と瓜二つ、すこしもかわらなかったのです。元豊はひどく不思議に思って、小翠が住む場所を尋ねました。でも、小翠はいつも身につけていた玉を一枚残してもうどこへか行ってしまいました。