
夕暮れからひどい雨になった。山々の姿が遠近を失って白く染まり、前の小川(おがわ)が見る見る黄色く濁って音を高めた。こんな雨では踊子たちが流して来ることもあるまいと思いながら、私はじっとすわっていられないので二度も三度も湯にはいってみたりしていた。部屋は薄暗かった。隣室との間の襖(ふすま)を四角く切り抜いたところに鴨居(かもい)から電灯(でんとう)が下がっていて、一つの明かりが二室兼用(にしつけんよう)になっているのだった。
黄昏时分,下了一场暴雨。巍巍群山染上了一层白花花的颜色。远近层次已分不清了。前面的小河,眼看着变得浑浊,成为黄汤了。流水声更响了。这么大的雨,舞女们恐怕不会来演出了吧。我心里这么想,可还是坐立不安,一次又一次地到浴池去洗澡。房间里昏昏沉沉的。同邻室相隔的隔扇门上,开了一个四方形的洞,门框上吊着一盏电灯。两个房间共用一盏灯。
ととんとんとん、激しい雨の音の遠くに太鼓の響きが微かに生まれた。私は掻き破るように雨戸をあけて体を乗り出した。太鼓の音が近づいてくるようだ。雨風が私の頭をたたいた。私は眼(め)を閉じて耳を澄ましながら、太鼓がどこをどう歩いてここへ来るかを知ろうとした。まもなく三味線(しゃみせん)の音が聞こえた。女の長い叫び声が聞こえた。にぎやかな笑い声が聞こえた。そして芸人たちは木賃宿(きちんやど)と向かい合った料理屋のお座敷(ざしき)に呼ばれているのだとわかった。二三人の女の声と三四人の男の声とが聞き分けられた。そこがすめばこちらへ流して来るのだろうと待っていた。