小翠は美しい上にとても利口でした。王夫妻も小翠を可愛がりました。でも、こんなにいい嫁が馬鹿息子に愛想を尽かさないか心配しました。しかし、小翠はよく笑い、元豊を嫌うようなことはありませんでした。
小翠はいたずらやゲームが大好きで、毬(まり)を作って、元豊や下女たちと一緒に蹴りました。蹴りだした毬を元豊に拾わせました。ある日、王がちょうどそこを通りかかりました。毬がぽんと音を立てて飛んで来て、いきなり王の顔に当たりました。元豊はそれでもまだ走ってきてその毬を拾おうとしました。王はひどく怒りました。そして、息子に石を投げつけました。元豊は地面に伏せて大声で泣き出しました。
王はそのことを夫人に告げました。夫人は小翠の部屋にいって小翠を責めました。でも、小翠はただ首を垂れて笑っているのです。いたずらは続きます。ある時は、元豊の顔に紅やおしろいを塗ったり。夫人はそれを見て、ひどく怒って、小翠を呼びつけて口ぎたなく叱りました。小翠は机に寄りかかりながら帯を弄って、平気な顔でビクビクもしなければ、何かを言うわけでもありません。夫人はどうすることもできないので、元豊を杖で叩きました。元豊は大声をあげて啼き叫びました。すると小翠は始めて顔色を変えて膝を折ってあやまりました。
同じ街に王という同じ苗字の人がほかにもいました。給諌(きゅうかん)の職についています。王侍御の家にとても近いのですが、初めから仲が悪かったのです。官僚の業績は三年毎に評価されます。ちょうどその時、王給諌は王侍御が河南道を監督していることを忌みきらって、中傷しようとしました。王侍御は、その企てを知ってひどく心配しました。しかし、どうすることもできません。ある日の夜、小翠は宰相に扮装し馬に乗り家を出て、声色を変えて言いました。
馬を進めて王給諌の家の門の前で「王先生にお目にかかろう。」いいました。