昨年末に日本メディアに「TPP旋風が」巻き起こり、「中国牽制」が最も重要なスローガンと原動力になったことをまだ覚えているかもしれない。米国と一体化しさえすれば、アジアにおいて経済的に中国の発展を抑え込み、日本自身を甦らせることができるかのようだった。(文:陳言・日本問題コラムニスト/日本産網站CEO)
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は米国のアジア回帰のスローガンであり、アジアにおける米国の最も緊密な同盟国である日本が積極的に呼応すること自体は情理にかなっているが、それと保守メディアの主張する中国牽制の目的を達成できるか否かは別の話だ。地図を見てみると、太平洋周辺国において中米日3カ国は大国で、GDP規模で世界の上位3カ国を占めるだけでなく、政治面でも世界的影響力を備えている。経済的、政治的に中国を太平洋パートナーシップから排斥しなければならないというのは、地理的に筋道が通らないし、実際の運用においても実現の可能性は余りない。旋風が過ぎ去った今、日本からまた新たな情報が伝わってきた。野田佳彦首相が29日からの訪米ではTPP問題に差し当たり触れない意向を表明したのだ。日本外交に大きな変化が生じた。
■TPPは米国と連携して中国を抑え込むため
TPP参加による中国牽制は、日本の保守メディアの一方的願望に過ぎないのかもしれない。だが80%の日本国民の嫌中感情に応じるものとして、一定のアピール力を持つ。
野田首相は昨年のAPEC会議参加前に、オバマ大統領のTPP提案に応じる考えをほのめかした。米国は元々全世界の経済・軍事に関わる国だったが、国力の衰退に伴い、至る所に出撃して敵をつくる状況を調整する必要が出てきた。アジア経済の急速な発展を見て、米国は政策を調整し、アジア回帰を決定した。グローバル化する中、経済面で自国とアジアを中心に行う実験的な調整だ。
米国は元々新概念を最初に提起する国だったが、これも国力の衰退に伴い、政治・経済分野の新概念においても他人のふんどしで相撲を取るようになった。TPPはもともとシンガポールやチリなど小国間の経済協定で、米国とは何の関係もなかった。オバマ大統領がアジア回帰を決定した時に目をつけたのがこのふんどしだ。大小に構わず、先にこのふんどしを締めて土俵に上がり、相撲をしてみようというのだ。
日本は元々TPPに少しも興味はなかったが、米国がアジア回帰を図り、かつ陰に日向にTPPを中国と対峙するための道具と見なしているのを見て、うまい具合に国内の嫌中感情と図らずも一致することを感じ取った。まず発行部数最大の新聞が「中国牽制」の主旋律を奏で、次に野田内閣がTPP交渉に参加する雰囲気の醸成に取りかかった。さながらTPPは天下の形勢を一変させる重要政策になったかのようだった。
TPP参加によってもたらされる利点は、日本の最有力紙の報道を見ると、数千億円の関税の減免だ。日本政府の報告は、10年でこの効果が得られるとしている。これは大学を卒業したばかりの人に給料は数千元だと言っておきながら、ただし10年間の総額だよと最後に告げるようなもので、全く泣くに泣けず、笑うに笑えずだ。
日本の最有力紙が主張する、TPPを利用して政治・外交面で中国を牽制するとの観点にどれほど実現可能性があるのかについては、ここでは余り語らずにおこう。経済面を見ると、日本の貿易全体の26.9%を中日韓の貿易が占める。中韓を除外すると、TPP圏内の国との貿易は全体の24.6%を占める。両者は大差ない。
だが今後日本が米国との貿易拡大を図っても余り大きな余地はないようだ。中韓との貿易拡大こそ、日本が必ず通らなければならない道だ。回り道をし、目先の小さな利益のために大きな利益をなくすのか。最終的にどのような選択をすべきなのか、日本政府は明確な見解を持つべきだ。
■消費税と原発事故で追い詰められている野田内閣
民主党の元老、小沢一郎氏の資金問題に対する一審判決が26日に言い渡される。検察が重要な証拠を改竄したスキャンダルはすでに知れ渡っている。このような証拠を基に小沢氏に判決を言い渡すのがすでに難しいのは明らかだ。日本の裁判所は相対的に独立しており、最終的な誤審の可能性は大きくない。もちろん民主党内には小沢氏を嫌う議員がまだ多く、今後も機会を探り、小沢氏の政治勢力を徹底的に覆す策を練り続けるだろう。
小沢氏が無罪となった場合、小沢氏を死地に追いこもうとした民主党の要人たちがつつがなく過ごせることはあり得ない。小沢氏は消費税や原発事故について、野田内閣への攻撃を始めるだろう。
国の財政・税収が日に日に苦しくなる中、最も重要な経済政策は景気回復だ。だが野田内閣は経済規模を縮小し、消費を引き下げ、国内企業を国外投資へと向かわせる消費税引き上げを選択した。日本経済はさらに深い低迷へ入る可能性がある。
日本のエネルギーは余り大きく不足していないが、福島第1原発事故のもたらした経済的損失は計り知れない。それでも、すでに時代後れの原発政策をひたすら推し進める。これによって野田内閣と民意の間に巨大な溝ができた。核兵器を保有するためには、まず原発を保有し、大量の核技術者の仕事を維持する必要がある。これは日本が朝鮮を批判する際の主たる論拠だ。実はこれは日本の真意でもある。いつでも核兵器を保有できる力を維持するため、日本は原発を放棄するわけにはいかないのだ。
未来の戦争で核兵器が本当に抑止力を持つのか、本当に使用できるのか、特に日本のような平和憲法を持つ国が、最後には第二次大戦時の真珠湾攻撃のように核兵器による先制攻撃をするのか?これらはひとまず置いておく。東京電力の原発で事故が起きて以降、今に至るも解決のロードマップはなく、10数万人が帰宅できずにいる。日本政府は一体福島第1原発をどう処理し、他の原発問題をどう解決するのか。日本の民衆が最も知りたく、最も政府の行動を望んでいるのはこの事だ。
こうした時に米国へ行ってTPPについて空論を弄び、民衆の反中感情を再び煽動しても、国内の視線をそらす効果はもう期待できないだろう。人目をくらまし、意表を突いた行動に出る。野田内閣は消費税引き上げを図り、日本経済の回復力に徹底的に打撃を与える一方で、原発の再稼働を望み、さらに大きな原発事故の危険に日本の空を覆わせている。昨年TPPによる中国牽制を鼓吹した有力紙は、今では原発の早期再稼働実現や消費税引き上げについてしきりに社説を発表し、野田内閣を支持するよう民衆に呼びかけている。だが多くの民衆は自分の切実な利益を気にかけており、こうした有力紙が共鳴を起こし得る部分は多くない。
TPP交渉への参加によって中国を牽制することは野田内閣の外交政策の1つだが、野田首相が直ちに必要とする消費税引き上げや原発再稼働の緊迫性から見て、当面行動を見送る必要がある。消費税と原発事故で追い詰められている野田内閣は、当面TPPを話題にできないのだ。(文:陳言・日本問題コラムニスト/日本産網站CEO)
「人民網日本語版」