日中関係が国交回復以来かつてない難局にある中、『日中対立を超える「発信力」――中国報道最前線 総局長・特派員たちの声』(段躍中編)が日本僑報社より9月上旬に刊行されました。日本の新聞・テレビ等の第一線で活躍する記者ら20数名が執筆者として名を連ねています。近年の中国報道の現場で感じてきた迷いや、日中関係改善へ向けメディアの果たす役割について、それぞれが率直な思いを記しています。
出版元の日本僑報社は、日中記者交換40周年の2004年に日中両国の現役または元特派員合わせて40人が執筆し、日中関係の歩みを記録した書籍『春華秋實――日中記者交換40周年の回想』を出版しました。今回の『日中対立を超える「発信力」』も、「記者交換50周年に捧げる本である」と編者の段躍中氏は「まえがき」に記しています。
本書のタイトルは、読者から寄せられたアイデアを参考にしながら決定されました。「領土問題や歴史認識に端を発した日中の対立が深まる中、報道の第一線で活躍するジャーナリストの"発信力"にこそ、日中の市民レベルでの相互理解、ひいては対立打開への多くの課題やヒントが隠されているのではないかとの思いが込められている」。さらに本書の読者にも、インターネット時代の新しいメディアであるツイッターや微博(ウェイボー)、フェイスブックなどを活用し、ぜひ日中関係の改善に有益な情報の発信者になってほしいと呼びかけています。
本書は、新聞・放送各社の中国総局長や特派員経験者のほか、外交官や研究者、日本在住の中国人ジャーナリストを迎え、メディアの枠を越えた中国報道のプロフェッショナルが一堂に会する異色の本となりました。本書の執筆者の1人で、メンバーへの呼びかけを行った読売新聞中国総局の加藤隆則局長は、「日中関係が困難な今だからこそ、声を挙げなくてはという思いに、執筆者たちはすぐに応えてくれた」と語りました。
また本書の「編集後記」では、日本人の対中感情の悪化について、日本メディアが「悪い面ばかりを報じる」「脅威論をあおっている」と批判されることに触れて、「現場にいる我々記者たちは、そんな意図は持っていない。あくまで真実の追求というジャーナリズムの原点に立って、取材、報道にあたっていると自覚しているはず。どうしてこうしたギャップが生まれるのか? 現場にいる記者の生の声を伝えることで不要な誤解を解き、関係打開の糸口を見つける努力をすべきではないのか。また反省すべき点があれば、みなが共有する必要があるのではないか」と記されています。
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