筆者が日本に留学したのは、日本の不動産価格が最高点に向かって上りつつある1980年代だった。留学生にとって、給料が高いうえに勉強に支障がないバイトといえば、並び代行だった。不動産の販売現場で並んだり、フランス産の新酒の新発売をねらってワイン専門店で並んだりする仕事である。

　依頼者と一緒に並ぶときもあった。一人につき一戸という購入制限があるのが普通だった。筆者は当時、ある部品工場の社長の代わりに行列に並んだことがある。従業員500人を抱える企業の社長だが、賃金コストが高く、製品の売れ行きも思わしくないため、工場を質入して不動産を購入し、価格の高騰に賭けるしかなかった。徹夜で並んだ報酬は普通のバイトの2倍に当たる2万円。80平方メートルの家を購入するには5000万円―7000万円がかかり、サラリーマンの10―20年間の年収に相当する。日本全体の平均不動産価格は一般人の6-7年間の年収にあたると当時の統計データにあった。筆者が入った大学のある教授は、欧米諸国の不動産購入の費用は4-5年間の収入に過ぎないことから、日本の不動産産業には必ずバブルがあり、弾けるのは時間の問題だと見ていたが、多数の人々が価格は下がるはずないと確信していた。

　家が高くなると、ほかの商品は自然に安く見えてくる。ワインのコレクションもはやるようになった。たとえば、1万円で手に入れたフランスの新酒は、数年経つとなんと2万円まで跳ね上がり、貯金するよりずいぶん収益が高い。

　筆者の友人の横田さんは1990年に海外から日本に戻り、1億円で埼玉県の100平方メートルの一戸建てを購入した。庭は車一台止めるのがやっとで、花を植えることなど無理だ。JRを利用すると大手町までの所要時間は1時間であり、家から駅までは25分かけて自転車を乗るか、奥さんに送ってもらうかしていた。

　1993年、バブルがはじけ、不動産価格が急落した。だが、筆者を含む一般人は、しばらくしたらまた巻き返すと信じていた。日本は狭く、家を必要とする人が町中に転がっており、下落の一方をたどるはずはないと信じた人々は、バブルがはじけた後も不動産を買い続けた。

　20数年後、並び代行の依頼者は工場を手離し、保有していた不動産も金にならなくなった。彼の息子によると、彼はずいぶん前に破産し、今は行方がわからないという。息子三人のうち、一人は学費の低い国立大学に入学したが、残りの二人は経済的な理由で大学に入れなかった。1億円で購入した不動産について、友人の横田さんは「今は数百万しかしないだろう。ましてやこんな価格でも買ってくれる人はいない」と語った。しかし、ローンはまだ残っており、「ローンを半生にわたって抱え、定年後もそれを返済し続けなければならない」と横田さんは嘆いた。

　不動産バブルの崩壊から20年が経ち、六本木などの不動産価格はピーク時の半分まで回復した。ほかの地域を見ると、不動産価格の回復はほぼ不可能である。そして、フランスの名産地のワインの価格はバブル当時の1割まで落ち込んだにもかかわらず、行列ができたり、コレクションとして買われることはほぼない。

　「中国網日本語版(チャイナネット)」