■コンビナートならではの夜景を五感で体験
私たちは「根本造船所」という小さな造船会社に到着した。造船業界全体に不景気が続く日本。同社の前身は江戸末期の造船所にさかのぼる。現在の主な事業は船舶修理となり、かつて世界を制覇した日本の造船業のひとつの縮図とは、にわかに信じられない。工場に入ると、多くの参加者が船舶の部品をじかに触った。亀山さんはここで、コンビナート夜景観光ならではの独特の魅力を紹介した。街の灯りとはちがい、コンビナートの夜景は警備員の安全、生産の維持のために必要な照明であること。コンビナート夜景ツアーは全天候型の観光資源で、1年365日、雨が降ろうと、曇りの日、晴天でも楽しむことができること。そして、目、耳、鼻、舌、皮膚などの「五感」を通じ、夜景を味わうことができるという。「五感」での夜景鑑賞とは、目で夜景を楽しみ、機械の作動音に耳を傾け、鼻で工場地帯ならではのにおいを感じ、モノに手で触れ、さらにツアー限定の「工場夜景カレー」などのグルメを舌で味わうことだ。
川崎市港湾振興会館(川崎マリエン)に着いた私たちは、9階「フロンティア」で有名な「工場夜景カレー」をいただいた。レストランに入ったのはすでに夜8時近かった。ぺこぺこの参加者達だったが、カレーを見た最初の反応はすぐに食べるのではなく、鑑賞することだ。工場、船舶、月、星空、果てはコンビナート内の煙突、照明などのすべてが、カレーから感じられた。ライスは工場、ビーフは船舶、半分に切ったゆでたまごは月、星空と煙突はカレーにかかったホワイトソース。工場とコンビナートの広大な路上の灯りはシーフード。カレーソースは洋々とした外海だ。
|