日本のコンテンツ産業原動力がコミケに集約していると直接的に考えることは理論が飛躍し過ぎていますので、ひとつずつ段階をおって考えます。
まず、同人誌マーケットは、産業的に考えても取引額ベースにおいて市場規模は大きくもありませんし、またそもそも商行為ではいくつかの関連法令で規制されている財を取引しているわけでありますので、これを産業振興政策として位置づけることはそもそも困難です。ですので、少し視点をかえることが重要になろうかと思います。いくつかの視点があると思いますが、僕が今回コミケを見て感じたこと、経験も含め提唱したいのは、潜在的な人的資源の観点と、マネジメント的放牧地の観点です。
1つめの「潜在的な人的資源の観点」とは、これは同人誌マーケットに出展するボランティア的サークル・組織、ひいては個人事業主として生計を立てている個人作家は、自らの創造力(クリエィティビティー)の研鑽を、来場する同人誌購入者との間での市場取引という客観的な結果指標によって達成できるということです。若手も育っていきます。この循環によって、出展者の創造力は回数を重ねるごとに向上し、クリエーターとしての能力をフェーストゥーフェースの取引を通じてあげていくことになっています。ですので、これらのクリエーターが国家として潜在的な優秀クリエィティブ人材の源泉となるでしょう。
また、来場者側もこうしたクリエーターとの取引を通じ、文化的な財(=同人誌等)を思考消費することによって、クリエィティブな思考を形成することにもなっているようです。100冊の面白いコンテンツをみたことのあるAさんと、5冊のつまらないコンテンツしかみたことのないBさんでは、プロではないけれども創造力に関しては、Aさんのほうが100冊分のリファレンスをもっていることになり、これはAさんのほうが、創造力が基礎力として高かろうと考えられます。この消費者が創造者側になることもありますし、そうでなくとも、社会全体のマクロ的文化受容力が上昇するかとおもいます。
2つめの「マネジメント的放牧地の観点」とは、企業が自らの商行為では規制があり達成できないことを、個人消費者間の同人誌マーケットで意図的に発展させることができるという視点です。ある企業が商業的な意図をもって開発したコンテンツの権利を正当に有しているとして、それを通常の商流にのせて一般のマーケットに販売しているとします。このとき、このコンテンツをアップデートし、よりレベルの高いものにしていくには、ユーザーからの意見をとりいれながらインタラクティブに作成していくことが重要になります(コンテンツは売り切り型の消費・サービスだけではない。)。これを達成するには、企業が敢えて著作権等に異議をとなえない「沈黙」によって、ユーザーの当該コンテンツに対する「放牧地」を用意してあげることで、ユーザーが任意にそのコンテンツを発展させることがよくあるようです(例:プラットフォーム=ドワンゴのニコニコ動画上でのコンテンツ=バンダイナムコグループが展開するアイドルマスター の組み合わせのようなバーチャルでもリアルでもPF+コンテンツ)。
|