ただもくもくと仕事する時代は終結
一般社団法人「Japan Innovation Network」の専務理事を務める西口尚宏氏は、「日本の製造業が陥っている苦境は、伝統的な日本企業のイノベーション意識中に存在する『誤解』を映し出している。日本人は、成功とは、苦行僧のように一生懸命働く匠の精神と考えている。これがイノベーションに対する伝統的な理解にも大きく影響し、こつこつと努力を積み重ねることで、革新的な商品が開発できると考えている。しかし、このような『イノベーション』は、せっせと働いていても、実際には進歩しないという結果になりかねない」と指摘する。
そして、「単にわき目もふらず働くという時代はもう終わった。日本人が考えている『技術革新』のほか、世界での競争において、新たな市場価値を創造するというのがイノベーション。日本の企業は、イノベーションに対する理解の点で進歩しておらず、『技術起点』で止まっている。それは『価値の起点』になるべき」との見方を示している。
実際には、日本は現在でも、スマホ産業チェーンにおいて、影の実力者だ。例えば、アップルやサムスンなどの大手スマホメーカーに重要な部品を供給しているのが日本の企業なのだ。しかし、全体的に見ると、ユーザーの需要を十分に把握しておらず、「価値」を起点としたイノベーションの道を歩んでいないため、日本は技術的なメリットを、消費者や市場に受け入れる商品へと転じることができていない。
このようなイノベーションへの誤解が、繰り返される産業の空洞化をもたらしてきた。1980年代以降、多くの日本企業がコスト削減のために、生産を海外に移してきた。しかし、設計や研究開発は日本で行っていたため、技術開発や市場開拓にずれが生じ始めた。
ビジネス界では、日本市場で独自の進化を遂げた携帯電話が世界標準から掛け離れてしまう「日本式イノベーション」が、「ガラパゴス化」と呼ばれている。東太平洋上で孤立しているガラパゴス諸島では、多くの生物が独自の進化を遂げた。鷲田准教授は、「日本式イノベーション」を、「ユーザーのいないイノベーション」と呼ぶ。市場から離れてしまうと、企業経営は暗礁に乗り上げてしまう。
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