
王:
わかりました。恐らく最初から日本は多民族、多地域の人たちのよせ集めというようなところがありましたので、思想、哲学、宗教、文化に対しても同じように抵抗なしに、おばあちゃんの箪笥と同じように大切にしまっているわけです。今おっしゃった伎楽に使われる先生が復元された綺麗な呉公の仮面ですが、あれを見て非常に感激しました。それに、もう一つは薬師寺の日光菩薩と月光菩薩の復元です。薬師寺が『西遊記』の中の主人公である三蔵法師が伝えた法相宗という中国人にとっては特別な宗派ですが、今の中国ではもう途絶えてしまいました。その教えが日本で延々続いていることに非常に感銘を受けました。
薮内:
日本文化の中の中国からの教えは、韓国を通して伝わったものが殆どだと思います。しかし、そのことは日本人自身忘れています。それから、中国の方も韓国の方もそういう日本の中にある文化がもともとはそれぞれの国に起源をもっているということを知りません。現在、日中、日韓の間では非常に不幸なことがいっぱい起きていますが、それはやはりお互いを知らないからだと思います。
王:
先生のお仕事を通して、お互いに知り合う機会となると思います。恐らくもう一度、東アジア、特に日中韓の文化大循環の啓蒙運動をする必要があると思います。
薮内:
その通りです。日本には色々な神社がありますが、一番数が多いのは稲荷神社です。それは、稲の実りを司る不思議な神様が祭られているるわけだが、こういうのもやはり、もともとは中国の江南地方の信仰だと思います。それからもう一つ多いのが八幡さまです。これは日本の第15代天皇である応神天皇の亡霊が八幡神になったというのが、それぞれの神社で言われています。八幡は「やはた」とも読み、「はた」というのは「秦」という漢字を書きます。その「秦」にかかわりがある人たちが移動し、朝鮮半島の南部に来て、「辰韓」という種族として勢力を拡大し、北九州、国東半島に入り、彼らの新興が宇佐八幡宮となった。宇佐八幡というのは、東大寺創建にも関わっているわけです。
このように考えると、今は中国だ、日本だ、韓国だと言っていますけれども、これを全部ひっくるめて人々のもっと大きなダイナミックな動きというのを日本人も知らなければならないし、中国の人々ももっと知るべきです。今の国境線でものを考えてはいけないと思います。長い間、東アジアで考えられてきたのは国家ではなく、清王朝、大和王朝、李王朝のような王朝です。
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